一般社団法人 日本再生医療臨床学会

幹細胞治療について

幹細胞の能力

私たちの体の中の細胞は、絶えず入れ替わっています。
これらの細胞の中には、再び細胞を生み出し、組織を正常化させる力を持った特殊な細胞があります。この特殊な細胞が、『幹細胞」です。

幹細胞には種々の能力があります。
特徴的な能力のひとつは、『分化能力』です。
ケガや病気、あるいは老化などで、損傷した神経、臓器、血管などを、体内の幹細胞が見つけ、新しい細胞組織として作り出し、患部との入れ替えや修復を行います。

損傷した部分の性質や機能を、まるでコピー機のように、分化・複製し、失った機能を回復させるのが、幹細胞です。
また、幹細胞には、抗炎症作用や疼痛緩和作用もあり、体内の炎症部分の治療や、慢性的な痛みの治療にも有効とされています。

老化が進むと、体内の幹細胞が脆弱化、あるいは、減少することで、免疫力低下を招き、病気やケガなどの治癒期間が長く必要になると言われています。
患者自身の幹細胞を培養増殖し、患者自身の身体に戻す幹細胞治療は、幹細胞の研究から生まれた安全で、画期的な治療法です。

幹細胞の種類と性質

ヒトの身体は、さまざまな細胞や臓器、器官などでつくられています。
最初は、生殖細胞である卵子と精子が融合して生まれた受精卵から、細胞分裂・分化を繰り返し、胎児へと形成されます。
再生医療で用いる幹細胞は、体細胞のひとつで、自己複製能力と分化能力を持っています。さらに、この幹細胞は、組織幹細胞(または体性幹細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)と大きく3つに区分されます。

組織幹細胞(または体性幹細胞)は、限られた細胞種への分化が可能な細胞で、造血幹細胞や、神経幹細胞、間葉系幹細胞などに分類されます。
幹細胞治療において、最も多く使用されているのが、この間葉系幹細胞です。
間葉系幹細胞は、中胚葉由来の幹細胞で、骨髄幹細胞や脂肪幹細胞などがあります。
特に、脂肪幹細胞は、患者の腹部などの脂肪組織から採取するため、最も低いリスクで、また患者のストレスも少ない採取法として多くの病院やクリニックで採用されています。

間葉系幹細胞は、損傷した患部を修復する創傷治癒能力や、傷みや炎症を緩和させる抗炎症因子を分泌する能力をもつことから、幅広い疾患に効果をもたらせています。

幹細胞治療の主な流れと安全性

実際の幹細胞治療の流れを簡単に説明します。

STEP.1
先ずは、幹細胞治療の対象者であることを医師が診察で判断します。

STEP.2
脂肪採取の方法は医療機関によって異なりますが、一般的には患者自身の腹部などから、少量の脂肪組織を採取します。
STEP.3
採取された脂肪組織は、その後、所定の培養施設で、幹細胞を取り出し、規定の数まで培養増殖され、患者自身に投与(静脈点滴、または局所注射)します。
STEP.4
投与後は、定められた一定期間、検診などで症状を確認しフォローを行います。

幹細胞治療では、採取した患者自身の、脂肪組織がコンタミネーション(試料汚染)を起こすことなく、安全に取り出され、管理されていることが重要で、医師の技術と経験、また培養施設の厳格な管理体制が求められます。

幹細胞治療を行う医療機関と実施する医師、並びに培養施設は、厚生労働省で認可・管理されており、それ以外の病院やクリニックでは、幹細胞治療は実施できません。

投与する細胞は、自分の細胞なので、通常アレルギーや拒否反応が現れにくい、安全な治療法と言われています。

治療名一覧

厚生労働省に提出された再生医療等提供計画(第二種)の治療名の一覧です。【2021年8月現在】
※治療名は簡素化して記載しています。

運動機能に関する治療

脊髄損傷の治療・関節症の治療・変形性関節症の治療・慢性関節炎の治療・スポーツ傷害の治療・慢性疼痛の治療・慢性筋骨格系疼痛の治療・靭帯欠損の治療・腱欠損の治療・顎骨欠損の治療・関節内組織損傷の治療

臓器に関する治療

脳梗塞の治療・脳梗塞後遺症の治療・脳卒中の治療・脳卒中後遺症の治療・脳血管障害の治療・心不全の治療・重症虚血性心疾患の治療・肝硬変の治療・肝障害の治療・慢性潰瘍病変の治療・非アルコール性脂肪肝炎の治療・2型糖尿病の治療・境界型糖尿病の治療・初期糖尿病の進展予防の治療・炎症性腸疾患の治療

血管に関する治療

動脈硬化症の治療・動脈硬化予防の治療・下肢血管再生の治療・血管再生治療・重症下肢虚血疾患の治療

皮ふに関する治療

アトピー性皮膚炎の治療・皮ふの再生治療・ざ瘡癒痕の治療・皮ふ陥凹性変形の治療・皮ふの加齢性変化の治療・放射性皮ふ炎の治療・熱傷の治療・瘢痕の治療・にきび痕の治療・潰瘍の治療・母斑の治療・白斑の治療・毛髪の加齢による減少の治療

眼に関する治療

角膜疾患組織の再生治療

神経に関する治療

皮下組織欠損の治療・顔面拘縮症の治療・神経変性疾患の治療・自己免疫疾患の治療・免疫老化の治療・中枢神経障害の治療

女性に対する治療

不妊治療・卵巣機能低下の治療・更年期障害の治療・乳房組織欠損の治療・豊胸治療

難病・その他の治療

リンパ浮腫の治療・難治療神経変性疾患(ALS・SCD・DLB・PSP)の治療・難治療性呼吸器間質性疾患の治療・特発性肺線維症の治療・間質性肺炎の治療・パーキンソン病の治療・アルツハイマー型認知症の治療・認知機能障害の治療

こころに関する治療

不定愁訴の治療

口腔に関する治療

不可逆性歯髄炎の治療・歯槽骨の治療